新宿区立高田馬場創業支援センターは2026年3月に、産業競争力強化法に基づく特定創業支援等事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」(全4回)を開催しました。
創業セミナー「Practice Fields」では創業を目指す方に、創業に対してより具体的なイメージを持っていただくとの趣旨のもと、実務経験が豊富な創業者などをゲストにお招きし、「具体的な経験談」「苦労したこと」「失敗したこと」など他所では聞けない話題を提供します。
今回は3月7日に行った第1回の様子をお届けします。ゲストは株式会社ナラティブベース代表取締役江頭 春可さんです。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ
第1回ゲスト:株式会社ナラティブベース 代表取締役 江頭 春可氏

1995年早稲田大学人間科学部卒業後、在学中に旗揚げした劇団で演劇活動を続ける。1996年株式会社リクルートに入社。ネット広告営業担当後、メディアサイトの企画設計、広告商品開発などを行う。
2001年にフリーランスとして独立し、2児の出産・育児をしながらフリーランスチームで業務委託事業を開始、2011年に株式会社ナラティブベースを設立。約50名の様々なスキルセットのフリーランスを、企業のニーズに合わせてチームにし、事業の成長とチームの成長を同時に作り出す対話型のプロジェクト推進サービスを提供中。
株式会社ナラティブベースのWebサイト
開催日:第1回 3/7(土) 14:00〜16:00
Q1 創業の理由・動機
― 最初に現在の事業について教えてください。
江頭春可氏(以下、江頭氏):私ともう一人取締役がいて、あとは全員フリーランスの業務委託という体制で、社員はいません。今は45人ほどネットワークしていて、中小企業を中心に、様々な分野のビジネスのお困りごとに対して、チームを作って一緒に伴走しながら、様々な体制を整えたり、課題解決をしたり、マンパワーやスキル、チームビルディングのようなこともお手伝いしたりする、そんな事業に取り組んでいます。
― 社名の由来は?
江頭氏:医療用語の「ナラティブ・ベイスト・メディスン」は、患者さんがどんな生活をしているのか、家族はどんなサポートをしてくれるのかというような、その人の背景の語りから医療方針を決めていくという考え方です。
私が法人を設立した頃は、ちょうどSNSが当たり前になり始めた頃で、皆さんが話し言葉で自分のコメントを書くような時代になってきていました。定量的に数値を見るのも大事だけれど、そういった語りやテキストに目を向けて方針を決めていくということが重要になってくるなと思い、「ナラティブベース」と名付けました。
― 創業にいたる経緯を教えてください。卒業後は就職されたけれど、半年でアルバイト生活に。しかし資金繰りが厳しくて主宰していた劇団は解散することになり、再就職をされたそうですね。そこでWebの仕事に出会うことになったと。
江頭氏:演劇ばかりしていた私を採用してくれたのがリクルートでした。当時は紙媒体が中心だったのですが、たまたまWebの部署に配属されたことは、私にとってすごくラッキーでした。
当時のリクルートは間近で先輩が事業を立ち上げていくのを見ることができる環境でした。ベンチャースピリットみたいなものがそこで培われた部分もあると思います。
― その後ネットベンチャーに転職され、結婚。そしてフリーランスになられたと。結婚と出産を経て、キャリアが変わっていくという感じだったのでしょうか?
江頭氏:そう思われがちですが、実は違います。転職したネットベンチャーのカルチャーになじめず、転職を考えていろいろな方に相談をしたところ、複数の人からお誘いをうけ、「全部やりたい!」となりまして。それが起点となり、フリーランスとして独立しました。
具体的には営業企画やセールス寄りの仕事が多かったのですが、メディアサイトの立ち上げもしばらくやっていました。双方向のコミュニケーションを促進していくようなことが凄く重要になっていった時代だったので、サイトを作るだけではなく、その後の運用も考えたチームを組もうというところから、ナラティブベースの前身ができていきました。
基本欲張りというか、何でもパラレルにできるのではないかと思っているところがあります。当時は「パラレルワーカー」という言葉もまだない。専門職じゃない人間がフリーランスになるということが、あまりなかった。なので、「何をやっているのかわからない」と言われ続けました。当時は「いろんなところでプロジェクトに関わっているんだよ」という話をしていましたね。

色々なことを並行してやっていたので、凄いスピードで自分が強くなっていく感じがしていました。そうすると更に別の仕事の声がかかるようになって、勢いがついていたのですが、そのタイミングで妊娠して、当時は周囲から如実にがっかりされました。
私自身も子どもを産んでから時間の制約や子どもの体調などで、「仕事」という約束事を守れる保証がなくなってしまい、弱気になってしまいました。このことを「株価暴落」と呼んでいたのですが、自分が提供できる価値は何も変わっていないのに、なんでこんなに市場価値が暴落するのだろうと頭を抱えましたね。それでもチームで働いてやっていくうちに、同じように感じているワーキングマザーからの共感が多くなり、ナラティブベースへ繋がるチームになっていく、そんな流れでした。
― 「株価の暴落」と思っているお母さんたちがたくさんいたのですね。
江頭氏:初期のチームを作り始めた頃はmixiが流行っていて、そこで自分の境遇と似たようなお母さんたちと繋がって、オンラインで会議をしながら、セミナーやワークショップの企画をするようになりました。この時に「雇用関係がなくとも、目的があって思いが一緒だとここまでできる」という感覚や原体験を持ったので、私の中で「これからは目的ベースで集まって、オフィスを持たなくても仕事はできる」という考えが確信になり、この形でやっていこうという勇気づけになりました。
― その後、第二子を出産されて、育児をしながら実際にフリーランスチームを立ち上げたという感じでしょうか。
江頭氏:はい。第二子を出産してからしばらくして、もう少し力を入れて働きたいなと思った時、人も増えてきて、業務委託の契約をする上で、法人があった方が契約しやすいかなと思い、法人化しました。自分がどのように働きたいかを模索し、体現している内に、仲間が集まったので法人化したという感じです。
Q2 チームについて
― 前例がないユニークなチームだと思いますが、その反面、難しいこともあるのではないでしょうか。どのようににチームを作っていったかをお聞かせください。
江頭氏:ナラティブベースは会社自体が大きなチームで、その中でプロジェクトごとにチームをつくるという形で仕事をしています。雇用関係ではないので、上下関係もなければ、会社としてもシステム的に評価をしてないので、その点が他の会社と違ってユニークなところかもしれません。一般的には、社員を雇ってやるような会社のバックオフィスも「カンパニー機能」と呼び、全部チームメンバーの業務委託でやっているというのが特徴ですね。
普通は事業が先にあり、必要なスキルを持つ人を雇用する形で会社は始まると思うのですが、弊社の場合はプロジェクトが先にあって、そのプロジェクトの目的に合わせて必要な人に集まってもらったら、その人のスキルがまた別のプロジェクトでも必要になるといった感じで、徐々にアメーバ状にいろんなことができるようになってきたことも特徴的なところだと思います。
ナラティブベースで仕事をする人を「NBメンバー」と呼んでいますが、基本的には紹介で実績がある人に集まってもらっているので、スキルの担保ができている状態でチームビルディングができました。
― 紹介制はミスマッチが起こりにくいということですね。
江頭氏:弊社のビジネスは、コミュニケーションの質が仕事の質に直結するので、信頼関係が担保できていないと、いくらその人のスペックが高くても機能しません。無理に広い範囲を対象に、どんなスペックの人と一緒にやるかを比較検討していくということではなく、近い繋がりで信頼関係のある人から紹介してもらうやり方を選んでいます。
「ビジネスモデルが拡張しなくない?」「メンバーを探すのが大変でしょう?」とよく言われますが、それを選んでやっているので割り切っています。
― コミュニケーションの取り方はどのようにしているのでしょうか?
江頭氏:専門性を一旦置いて、フラットな立場で話すことで相手の重要な背景を引き出し、それを元に一緒に考えていくという方法が「ナラティブアプローチ」なんですが、この考え方を社内やお客さんにも広めていこうという発想で、人が増えてきました。
弊社はもともと上下関係がない組織なので、ナラティブアプローチが機能しやすい環境です。フラットにお互いに話をして、その人の背景を聞き取った上でチームを作り、能力を活かして課題解決していくことにこだわってやってきたら、それが会社の特徴になっていき、結果的にビジネスにもうまく繋がっていくという流れが作れました。
仕事の話をしようとすると、理路整然と説明しなきゃということが先に立っちゃうことが多いですが、普段感じていることの重要なシグナルって「何となく嫌だな」とか、「モヤモヤするな」みたいな、もっとまとまらない感覚だと思います。そういう、まとまらない感覚から話そう、一緒に考えよう、直感的に感じていることを聞き取ろうと心がけています。遠回りですが、そういうことを地道にやっていくことで、お互いが分かり合える関係になる。
ここをそぎ落としてしまうと、誰かがやりたいことを理路整然と説明して「やらせる、やらされる関係」になりがちです。仕事仲間として一番重要な部分「フラットな関係でお互いに聞き合う姿勢」を組織のカルチャーとして根付かせることを一生懸命やってきた。それが、長続きしているコツだと思います。
私達はオフィスがないため、共通のカルチャーを持ちづらいので、いろいろな共通言語を作ってきました。それがコロナ禍以降に評価されて、問い合わせや仕事にも繋がっていきました。
― NBメンバーには自然淘汰されるという自浄作用があるそうですね。
江頭氏:「1人が1つの商店」という共通言語を持っているのですが、一人一人が「フリーランス」、いわば「お店」なので、信頼のおける繁盛するお店になるかは、その人の責任になります。中には「今は子育て中心なので、細々夜中だけ店を開けています」というような人もいる。そういう商店街的な関係性を作りつつ、お互いの状況で深く関わる人もいれば、距離を取る人もいるというようなスタイルになっています。
一度、雇用してしまうと簡単には辞めてもらうことはできませんし、請けたくない仕事を断ることも難しいですが、それができる組織なので「お互い様」という感じです。
Q3 事業の展開・転機
参加者:創業期に想定していた事業内容をピボットしたことはありましたか?
江頭氏:創業して7~8年くらいは、クライアントの企業から相談を受けたことに対し、チームを作って業務委託をする「何でも屋」みたいな感じで仕事を進めながら、「ナラティブアプローチ」を使ってチームを良くするための取組みを進めていました。ある時、今後の方向性を考えるために信頼がおける人にヒアリングをすると「チームビルディングの技術を持っているのに、それがビジネスに繋がっていない。あなたが大切にしているミッションやビジョンバリューとビジネスの関係性を説明できるようになった方がいい」と言われてピボットしました。
「離れていても強く繋がるチーム」ということをキャッチコピーに「フルリモートのプロジェクトベース」という、他にはないチームビルディングができているという強みを業務委託と併せて、事業化にしていくことを考え始めました。
ちょうどその頃にコロナ禍になり、急に多くの会社がリモートワークに舵を切り出したので、事業内容を「リモートワークのお手伝い」や「リモートワークでもうまくいくチームを作ってくれる会社」というところにピボットすることもできました。それは時代的なタイミングがあって、できたことだと思います。
― コロナ禍までにチームビルディングを形式知にされていたことが大きかったのですね。
江頭氏:すごく時間をかけた投資だったと思います。チーム作りはコミュニケーションに尽きると思うので「良いチームがどういうコミュニケーションをしているかを解剖してみよう」「そうしたら、良いチームの再現性が上がるはずだから」という話を社内でしていました。
対話を大事にした会議手法であったり、共通言語を使ってカルチャーを伝達する方法だったりとか、対話をうまく引き出すワークショップのやり方とか、そういうものをどんどん説明できる形にしていくことをやっていました。
― 大事なことは「手を伸ばし合う」
江頭氏:相手を受動的にさせてしまうやり方は、いくつもあると思っています。例えばルールを押しつけるとか、相手のことを置き去りにしちゃってコミュニケーションを始めると、相手を受動的にしてしまう。「社員に主体性がない」という相談を受けると、「主体性がない人なんかいなくて、それはただ出てきていないだけで、出ない理由がある」と思ってしまいます。
だから、この「手を伸ばし合う」というのはすごく重要で、相手から手を伸ばしてもらう場を作るとか、時間を作る。そうしてフラットに繋がって力を出し合っていく。「押しつけじゃなくす」ことがコツだなって思っています。

Q4 資金調達
― 資本金の200万円は、自分で出資して会社を立ち上げられたと。
江頭氏:オフィスを持たず、雇用もしないという形で、固定費なしでリスクを最小限に抑えてやってきました。自分が子育て中で、どのくらい仕事にコミットできるかが曖昧だったということもありましたし、リスクを負いたくなかった。
創業してから自己資金だけでやっていた時期が長かったので、融資を検討し始めた頃には「創業助成事業」のような創業に特化した支援施策がいくつか対象外になっていたので、それはもったいなかったなと思います。創業融資の条件がいいものは、期間が限られると思うので、これから創業される方は早めに検討されるといいかなって思いますね。
― その後コロナがあったタイミングで融資を受けられた。
江頭氏:お金のことはきっちりやるタイプなので、キャッシュフローをちゃんとしていくということだけは、根気強くやってきました。ある程度、キャッシュフローに余裕ができてきた時にコロナ禍になりました。仕事のプロジェクトが減ってしまって大変だったのですが、金利がほぼ0%のコロナ融資がたくさん出てきたので、この機会に借りておいた方がいいなという直感が働きました。
資金繰りにとても困っていたわけではないですが、日本政策金融公庫と地元自治体の融資斡旋制度を使って民間金融機関から融資を受け、運転資金にしました。人数が増えてくると、「手元に資金がある」ことは重要だと思います。資金が「ある」状態を保つことは心がけています。
― ものづくり補助金でも採択されたということですが、これはどちらかというと反省されているそうですね。
江頭氏:メンバーが増えてきて、基幹システムの入れ替えをものづくり補助金でしようと始めました。金額が大きかったので、「あれもできるこれもできる」と色々計画したのですが、あとから考えると、この機能はいらなかったな、そこまでしなくてもよかったなということが結構ありました。
弊社では、会社を運営する上で必要な活動もメンバーに発注しているので、メンバーも潤うし、補助対象額をある程度とっておこうみたいな感じで計画してしまいました。あと、一度不採択になったことが悔しくて、「次は絶対採択されるようにしよう!」みたいな感じになってしまいました。「手段の目的化」ってこういうことかということを経験しました。補助金は取れるものだったら取っておいた方がいいという話を鵜呑みにしてしまったのは、本当に反省しました。
Q5 今後の展開
― 会社が生まれた時は自分の子どもだったのに段々自分のものじゃなくなっていくっていうお話が面白いなと。
江頭氏:会社って子どもみたいな感じだと思っています。産んじゃったら手放せない、育てていくしかない。創業当初は「ナラティブベース=自分」というような、どうしたらいいのかを考えるのは、全て自分という感覚でした。それが人も増えて、会社が個性を持ち始めると、子どもが育っていくように段々と人格が見えてくる。「ナラティブベースはどうしたいのかな?」と考えるようになり、自分自身のことではなくなってきたという経験をしましたね。
「会社をどうしていきたいか」と考えるとき、どうしても所有しているオーナーの立ち位置で考えてしまうのが普通だと思います。でも私は、子育てのように産んだ子「ナラティブベース」はどんな風に個性が花開いていくのだろう、育っていくのかなと考える方がしっくりくる感じです。
― 今後は事業を大きくしていくのではなく、ある程度の規模を保っていかれるそうですね。
江頭氏:すごく特徴のあるカルチャーを持った組織に育ったので、その個性を考えると、カルチャーを色濃く守りながら、一定の規模でいろいろな実験を繰り返して、そこで得られたナレッジを外に出していくスタイルがいいなと今は考えています。カルチャーは広げるほど薄まってしまうので。
チームをまとめる人を「チームコンダクター」と呼んでいます。チームコンダクターを育てて、ナラティブベースを経てチームの「指揮者」となれるスキルを持った人たちが、様々なところでチームビルディングをしてくれるような状態にしていきたいと思っています。
一度身につけてもらったことを自分で守破離していくというか、離れていってもいいし、それがまた別のところで別のカルチャーになってもいいしみたいな、そういうイメージを持って会社を育てていますね。

― やりたいことのもう一つが他業種連携の現場でナレッジを実装したい。
江頭氏:医療や福祉分野からの問い合せが多くなり、実際に伴走させてもらう機会が増えてきています。日本が超高齢化で、全員が介護や在宅看病、看取りをしていくような立場になった時、その現場のお手伝いも個人的にはしてみたいと思っています。
例えば、在宅医療はすごくいろいろな業種が連携しています。いろんな事業所から来ているから、みんなカルチャーが違っていて、患者さんのために働きたいのにコミュニケーションがうまくいかないことが起きているという話を聞いています。ナラティブベースで培ったことを医療や福祉の現場に持ち込むことで、その課題を解決するということにも興味があります。今、そちらの業界にも耳を傾けているところです。
― その事業で助成金も申請されているのですね。
江頭氏:在宅医療の他業種コミュニケーション研修みたいなものを助成金申請しています。これまでの手法を医療業界向けにアレンジしたものを作ろうかなと思っています。