
私達が普段利用する施設や街中には、「どこに何があるのか」「どこにいけばいいのか」などを案内してくれる看板や見取り図などの情報が掲示されています。これらは「サイン」と呼ばれ、利用者に情報を与える役割がありますが、それぞれの建物・空間にあわせたデザインであるべきだと、佐野さんは考えています。
今回のインタビューでは、そんな「必然性のあるサイン」を手がけるサインデザイナーである当センター利用者の佐野さんに、創業のきっかけや思いなどを伺いました。
株式会社LORAN DESIGN 代表取締役 佐野 裕次氏
~プロフィール~
1997年千葉大学法経学部を卒業後、改めてデザイナーの道を志すために東洋美術学校に入学。
1999年より施工会社のデザイン室などで実務経験を積むが、物を作って納める立場ではどうしてもデザインを独立した価値として認めてもらいにくく、2006年にアトリエ系のデザイン事務所に入所。19年ほど活動したのちに独立し、2025年LORAN DESIGNを設立。
従来からの空間内の案内情報システムの構築などの業務の他、建築のアイデンティティを高める提案を積極的に行い、施設のバリューアップに資するデザイナーとして、幅広いカテゴリのプロジェクトに参画している。
株式会社LORAN DESIGN HP:https://www.lorandesign.jp/
現在の事業内容について教えてください。
建物や空間を使う人が「どこに」「何が」あるかなどの情報を把握するために設置するマップや文字、矢印などの情報、そして演出的なグラフィックをデザインするサインデザイナーです。
これまでは、比較的無頓着な計画で設置されることが多かったサインに特化した専門のデザイナーとして、同じデザインを使い回すのではなく、建築家の方や開発者の方たちがこだわって丹精こめて設計した空間の価値を引き上げ、その場所に必然性のあるものをデザインすることを自分の存在意義として活動しています。
創業しようと決めたきっかけは何ですか?
組織の中で素晴らしい機会に恵まれ、デザイナーとして経験を積んできましたが、組織の意思決定の中で自分の思いを形にしきれないことにストレスを感じることもありました。自分のやりたいように形にすることがデザイナーの醍醐味であろうと思うに至り、独立して創業することにしました。
非常にニッチな世界なので、以前所属していた事務所では特に分業などはなく、0から100に近いところまでを一人で担当していて、トータルでプロジェクトに臨めるスキルを磨くことができたことも独立する上での基礎になっています。
創業する際に大変だったことは何ですか?
これまでデザイン分野の一本槍で社会経験を過ごしてきたので、まず何をすればいいのか、何から始めたらいいのか、全く整理できない状況でしたが、高田馬場創業支援センターの創業スクールに参加したことが大きなきっかけになりました。実際に活躍されている起業家の方やサポートしてくれる方々に色々なことを教えていただいて吸収したことで、自分の中での無知に対する焦りがどんどんなくなって、気持ちが楽になりました。
法律で必要な実務の事務手続きなどに関しては、創業者向けのサービスに大いに助けられたので、1人でも事業を立ちあげることができました。ただ、今後仕事が増えていく過程では、社内に人材を増やす必要がありそうだということも感じ始めています。
新宿区を事業拠点にしようと思ったのはなぜですか?
高田馬場周辺は小中学校時代を過ごした場所で、転勤族だった生い立ちの中でも非常に愛着がある土地でした。創業を考えるよりも以前から、仕事をするなら是非この場所でやりたいと漠然と考えていました。創業に関するサポートについて調べていく内に、新宿区の創業支援を知り、高田馬場創業支援センターに辿り着き、創業スクールをきっかけに利用することを決めました。
今後の事業展開、ビジョンについて
まずは自分が提供するものの純度をあげないと、僕のデザインを買ってくれる人や使ってくれる人はいません。純度を上げれば新しいデザインを生み出せる機会が生まれ、そのことで自分のデザインの可能性が広がり、更に新たな機会が生まれる。そういう循環が生まれるようにできればと考えています。循環することで自然と物量も増えるでしょうから、いずれ組織やシステムといったものを作っていかなければいけないと思っています。
今後は僕たちの業界のデザイナーを増やす、質を上げるということのお手伝いもできればと思います。いつか仕事の第一線からフェードアウトする時には自分がやってきたこと、培ってきたことを残すというか、技術を引き継いで繋げる相手としても、スタッフを雇用することは必要だと考えています。
創業を目指している方にメッセージをお願いします
僕が創業を志す動機になったのは、「自分の意思やアイデアで仕事がしたい」ということでした。どんな業種でもこういう思いは出てくると思うので、「自分ならどうするか」を常に考えることは大事です。思考のトレーニングをすることで自分のベースとなるものが増えて「1問われたら10出せる」といったスキルにも繋がっていきます。
仕事を広げていくにあたってのプレゼンやプロモーションなどのコミュニケーションは非常に重要で、会話とは今まで何を考えていたかが出る場だと思うので、自分なりのアイデアや切り口を出せるように、常に「問題意識をもって考える」ことを意識するといいと思います。