Practice Fields トークセッション:株式会社mgn 代表取締役 大串 肇氏

株式会社mgn 大串肇氏 講演風景1
2017年12/2(土)・12/9(土)・12/16(土)・12/23(土)に当センターにて開催されました、産業競争力強化法に基づく特定創業支援事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」にて行われたトークセッション内容をご紹介します。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ

第3回ゲスト:株式会社mgn 代表取締役 大串 肇氏

Web制作会社にてデザイナー兼ディレクターとして勤務後、2012年よりフリーランスmgnとして独立。
2013年WordCamp実行委員長。WP-D Fes主催。2015年より株式会社mgn代表取締役となる。同年Team LENS発足。チームとしての活動を開始。2016年6月よりめがね米の販売を開始 。Webサイト制作ディレクション業を主な仕事とし、一般企業や開発会社と一緒にプロジェクトを円滑に効率的に進めるための手伝いをしている。
株式会社mgnのホームページ/
開催日:第3回 12/16(土) 15:00〜17:00

Q1 創業の理由・動機

― 現在の会社を設立する前は、どのようなお仕事をされていましたか?

大串肇氏(以下、大串):大学を卒業した後、大手のアパレル会社に就職し、店舗スタッフとして働いていました。配属された店舗が、結構やんちゃな地域で、グループ店の中でも特に万引きが多かったんですけど、副店長(といっても店長と合わせて社員は2名)としてスタッフのみんなと力を合わせて、万引きを取り締まって、棚卸しでロスゼロを達成したりしました。

そんなことで、「僕はサラリーマンとしては、おそらくやっていけるに違いない」と感じました。若いですね。そんな頃、バンド活動をしていた友人を見て、「サラリーマンはいつでもできる。バンド活動は今しかできないし楽しそう!」と急に思いたち、会社を辞めてその友人と一緒にバンド活動を始めました。

でも、バンドだけでは当然食べていけないんです。生活のために前職の経験を生かしてアパレルショップでアルバイトを始めたのですが、時給が低くて・・・。そんなタイミングで、たまたまアパレルショップの時給の3倍もらえるWeb関連のアルバイトを見つけました。

大学生の頃にHTMLを少しやっていたことがあったので、その会社で働くことにしました。アルバイトのつもりで面接に行ったところ、「今社員がいないから、社員で入らない?」と言っていただいたので、そのままその会社に就職することになりました。

― そこではどんなお仕事を?

大串:ディレクションデザインを担当しました。お客様からお話を伺って、Webサイトのデザインを決めていくような仕事ですね。当時、僕は技術があまりなかったので、かっこいいWebサイトを一覧にまとめているサイトを見て、イケてるWebサイトを片っ端からチェックし、お客様の要望に合いそうな部分を参考にして、自分なりにWebサイトのデザインをつくるということをやっていました。

その会社には、僕の他にもう一人プログラマーさんがいて、僕がお客様から話を聞きデザインを描いて、彼がサイトを作って、納品するというのが仕事の流れでした。つまり2人で仕事が完結していたんです。2人で仕事が完結するのであれば、僕達でやっていけるのではないかと思い、2005年に二人で独立しました。

ところが、独立したら仕事が全くありませんでした。近所のお店を営業して回ったりしましたが、なかなか仕事に結びつかず、どうしようと困っていたら、たまたま大学生時代の先輩でWeb制作会社の社長をやっている方と仕事をするようになりました。

この方は営業の才覚がある方で、その先輩が仕事を持ってきて、僕らが外注先として制作するというスタイルで仕事をするようになりました。半年くらい、そのような関係が続いたあと、「うちの会社で社員として働いた方がいいんじゃない?」と言われて、再度就職することになりました。とてもありがたかったですね。

その会社はCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の一つであるWordPressを使ってWebサイトの制作をしていました。CMSが出てくる以前は、Webサイトを作成したり運用するためには、すべて技術的な知識が必要で、ページの更新一つでもWebの専門家に依頼する必要がありました。

CMSが急激に広まった理由の一つとして、テキストや画像などのコンテンツさえあれば、技術的な知識が無くても自分で情報発信できるという点があります。その頃、広まりつつあったCMSの中でもWordPressの需要が特に増えてきている時期でした。

― 再度就職したのに、なぜまた独立することに?

大串:実は何か目的があって、その会社を辞めたというより、自分のプレッシャーに負けて会社を辞めてしまって独立したんです。仕事は増えていく一方だったのに、僕は「パーフェクトディレクション」を目指していました。ディレクションは、クライアントさんとプログラマーさんやデザイナーさんなどの制作側をつなぐ仕事です。クライアントさんの話を聞いて、その期待を超えるいいものを制作側に作ってもらって、みんな幸せ!という完璧なディレクションが実現できると信じていました。

でも、そもそもクライアントさん自身が、僕達に何を作ってほしいのか、なんとなくしか分かってないことが多い。何を作ってほしいのか、あやふやな状況で発注されると、僕も「なんとなくこんな感じで作ってください」と制作側にお願いすることになってしまう。

そうすると、結果的にクライアントさんが想定していたものより、質の低いものが出来上がってしまうんです。クライアントさんは「なんでやねん!」ってなるし、改めて修正をお願いすると制作側も「一生懸命作ったのに何だ!」と、みんな怒ってしまう。「バッドディレクション」になってしまうんです。

僕はクライアントさんにも制作側にも謝りますし、修正を繰り返すことで納期もだんだん伸びてしまって、どんどん大変な状況になります。会社が売れれば売れるほど、難しい案件を扱うことになるので、「バッドディレクション」がたくさん発生しました。だんだん辛くなってしまって、最終的に出勤途中に無意識にゲームセンターでコインゲームをしているような状況に(笑)

株式会社mgn 大串肇氏 講演風景2

― でも、Webディレクションそのものを辞めるという選択はされなかったんですね。

大串:そうなんですよ(笑)会社を辞めてフリーランスになった時に、継続案件がいくつかいただけていたこともあり、続けていました。会社を辞めてすぐにHTMLの本を5冊ぐらい買って、頑張って勉強しました。クライアントさんと制作側との間にトラブルが発生することが、ディレクションをしていて、気持ち的に嫌になってしまう原因でした。HTMLを勉強して自分で制作できるようになれば、少なくとも制作サイドから受ける悩みはなくなるなと。

フリーランスになってからは、ギリギリ生活ができるくらいの仕事がありましたが、きっとすぐに仕事はなくなるに違いないと思い、実は同時並行で就職活動もしていました。でも、なかなかタイミングが難しくて・・・。今やっている仕事より良い条件の求人があったら就職しようと思いながら求人を見続けていたのですが、結果的にはフリーランスとして活動した初年度からおかげさまで売上がそれなりにあがりまして。その後、消費税などのことも他の社長さんから伺ったりして、フリーランスになってから2年後に法人化しました。

― それはすごい!事業展開については、後ほど詳しくお聞きしたいと思います。

Q2 チームについて(誰とやるか)

― 現在、会社のメンバーは何人ですか?

大串:私と社員3人です。フリーランスの方を含めると10人ほどのチームで仕事をしています。

もともと社員を雇う予定は一切ありませんでした。ただ、忙しくなりすぎて手が足りなくなってきました。そうなると、だんだんお客様の方から謝っていただくことが増えてきまして・・・。

― 「お忙しいのにすみません」って?

大串:そう!そうなんです。みなさん謝られますし、僕も行くたびに謝るし。これは良い状態ではないなと思い、社員を雇うことにしました。

社員を雇うことについて「社員さんの人生を背負うのが大変だ」という話をよく聞きますが、僕は雇うタイミングで「儲からなかったらつぶれるよ」と必ず言います。会社のお金も全て、みんなで共有しているんです。例えば事務所の引っ越しにいくらかかるけれど、引っ越さないでその分のお金を給料として社員に支給することもできる。どっちの方がいいと思う?ということを常々聞いています。

要は、ついてきてもらえるほど責任感も実力もないから、みんなそれぞれに頑張って儲かってください!的な発想です。

彼らは彼らで、会社がどう儲けるかは重要だと思ってくれているようです。会社の仕事は色々ありますよね。僕が取ってきた仕事をこなしてくれるとか、面倒ごとをたくさんやってくれるとか。これからは仕事のやり方を決めていく必要があると感じていますが、今のところはみんな自分で考えてやってくれています。

― 勝手に活躍する場所をみつけて、勝手に活躍する人を仲間にするんですね。

大串:そうですね。ある意味フリーランスに近いです。言われたことだけをやってお金儲けができることは、すべて機械にとって代わられるような時代です。だから、やったことのないことやできないことをやってみるとか、お客様の問題を完璧に解決できなくともこの人に相談したいと思ってもらえるような仕事をするとか。そういう部分が大事だと思っています。

Q3.事業の展開、転機

― 会社員の時と起業してからでは、仕事の向き合い方はどう変わりましたか?

大串:できる範囲で外に出るようにしたことですね。会社員時代は勉強会に行くなんて大変すぎると思っていたんですよ。ただでさえ抱え込んでしまって忙しくて、というような状態だったので。余暇を作るためには、120%の仕上がりの仕事を、自分の仕事時間の50%で終わらせて、すぐに帰って好きな事をやるのが、プロサラリーマンだと思っていました。

会社員の頃は「所属する会社の自分」というブランディングがありましたが、会社を辞めてフリーランスになると、よくわからない「ただの人」になってしまうんです。前回の独立にここが失敗だと感じていました。なので、これからは僕を知ってもらう必要があると思い、会社を辞めてすぐの頃、ちょうど鹿児島県でWordPressのコミュニティイベントが開催されていたので、参加しました。

そこでバッドディレクションのことをしゃべる機会をいただいたのですが、それに共感してくださる方がたくさんいました。こういうことがもっとみんなで話せたらいいね、ブログになっていたらとても楽しいよねとなり、WP-Dというブログを立ち上げることに。WordPressに関わる人たちの交流がWeb上で始まったんです。

その時の登壇が楽しかったので、それをきっかけにAmazonのクラウドサービスであるAWSのイベントやHTML 5 Conferenceなど、とても大きなカンファレンスで5分間くらいのLT(ライトニングトーク)をやらせてもらいました。コレがまたとても楽しくて。とにかくLTが楽しい!ってことで続けました。

― ご自身のブランディングが目的でLTをやり始めたんですか?

大串:当時はブランディングとしてはあまり考えていませんでした。楽しみがほとんどですね。でも今になって考えると「人に見つけてもらわないと!」という気持ちも合ったのかもしれません。自分ができる中で一番手っ取り早い方法が、LTというのは間違いなかったです。

― 世の中のサービスのほとんどは、見つからないから評価さえされずに消えていくんですよね。

大串:ある優秀なエンジニアさんが、「見つかっていないエンジニアは、世の中にいないのと一緒」と話していたことが、すごく印象に残っています。どんなにスキルがあっても、スキルのあるエンジニアは山ほどいるそうです。

見つかっていないスキルのあるエンジニアよりも、見つかっている普通のエンジニアの方が絶対にイケてる。セルフブランディングをやり続けると良いことが起こるっぽいということを何となく感じていて、目の前の出来ることを順番にやり続けました。

― 独立して力を入れたことは第一に「知ってもらうこと」ですね。大変な思いをされたディレクションを独立後もお仕事として続けていく上で、何か気づきはありましたか?

大串:Webディレクションの仕事をしている中で、「プロジェクトはなぜ最後の最後にバタバタするのか 」ということについて、ずっと悩んでいました。プロジェクトは必ず期間が限られているものです。プロジェクトが終盤になると、「ここはアキを広くしてほしい」とか「印刷するとレイアウトが崩れます」とか、細かい修正が山ほど出てきます。全てを修正しているとプロジェクトはいつまでも終わらない。でも言われていることは、確かに直した方がいいことばかりなんです。

そこで、プロジェクト全体の流れと工程の割合を見直しました。見直してみると、開発準備:デザイン:開発:修正・調整が、0.5:1.5:3:5でした。実は「修正・調整」だけで全体の工程の半分もの作業時間を必要としていたんです。それに対して、実際の見積もりは主に「開発準備、デザイン、開発」だけです。

実際は作業が存在しているにもかかわらず、見積もりに含まれていない部分がこんなにあった、ということは大きな発見でした。その上でこの見積もりに含まえれていなかった部分に名前を付けることが必要だと思い、「Review」と呼ぶことにしました。

WordPressサイト構築 プロジェクトマネジメント by megane9988より引用≫

今までの僕は、開発までに重点を置いていました。そのため、開発が終わると直後に納期が来てしまい、修正や調整は、公開後の作業となっていました。クライアントさんから「もう公開されているので、今すぐ直してください!」と言われるので、もやもやしながらも納期後に頑張り続けないといけない状況が続いていました。「Review」のことに気づいて、最初から見積もりにいれるようにしたので、そのもやもやした部分をなくすことができました。

― ものすごい発見ですね。Webに限らず、多くの仕事でそのようなことが起こっていると思います。名前を付けることで最初からReviewを認識し、見積もりに含められるようになったことは大きな成果ですね。

大串:プロジェクトのポイントをまとめた知識体系として「PMBOK」というものがあります。その中に書かれている「10の知識エリア」を参考に、「プロジェクトマネージャーを誰にするか」をとりあえず決めるということをしています。納品したあとに社長さんが出てきて「なんか違うんだよなあ」と全部ひっくり返すということがありますが、それは社長さんがプロジェクトマネージャーを受け入れていなかったために起こることです。

プロジェクトマネージャーはこのプロジェクトにおける神様で、「後から出て来る社長なんかより偉いんだ」という設定が必要です。もし先に言ったようなことを社長さんがされるのであれば、最初から社長さんをプロジェクトマネージャーにして、意思決定の際に必ず見てもらうべきなんです。

社長さんによっては、すごく忙しいし感覚的な人だから、タイミングのいい時に聞くしかないという場合もあるかと思います。そのようなプロジェクトでは、社長さんに対して話の出来る、相手の会社の担当者さんにプロジェクトマネージャーになってもらいます。

そうすると、万が一さっき言ったような社長さんのひっくり返しが起こったときに、責任はこちら側ではなくプロジェクトマネージャーである相手の会社の担当者さんが負うことになります。そうするとプロジェクトも進めやすくなるんです。最終的な責任者を決めているのといないのとでは全然違います

― Reviewを可視化したこともそうですが、プロジェクトはだいたい間に合わなくなるということを最初に伝えて、先方に理解していただくことが大事ですね。

大串:そうですね。クライアントさんと制作側のプロジェクトに対する認識の齟齬をいかに無くすかが重要です。PMBOOKの10つの知識エリアの一つに、「リスクマネジメント 間に合わなかった場合にどうするのかを最初に決める」という項目があります。プロはプロとして仕事を進めますが、プロはプロとして間に合わないことがあるというのを知っているので、間に合わなかったときにどうするかを先に決めさせてもらうんです。

プロジェクトがどういうものなのかをクライアントさんに認識してもらいます。納期3日前にこんなことを伝えると「何言っているんだ!ふざけるな!!」となりますが、最初にスケジュールを決めるタイミングで言っておくと、「ああ、しっかりしている会社さんだな」と思われやすいんです。

― 今おっしゃったようなことが、普通のことだと世の中全体が意識すれば、自然とお客さんも「プロジェクトってこういうものですよね。一般常識ですよね」と最初から理解してもらえて、仕事もやりやすくなりますね。

 

Q4.資金調達について(自己資金・融資・投資)何を使ったか、どう考えているか。

― 今まで資金調達をしたことはありますか?

大串:おかげさまで初年度から、資金調達をしたことはありません。

― 上場などは考えていますか?

大串:はっきりとは考えていませんが、上場したらすごく儲かるということだけは聞いています(笑)そのようなエピソードは、今までは知り合いから伝え聞く話ばかりで、遠い話だなと思っていました。それがここ一年くらいで、僕達が使っているサービスが上場したり、これから上場しようとされている会社さんとお仕事する機会が増えてきました。

― 今まで自然と何かが大串さんに近づいてきて、それに合わせて自分自身を変えることで会社を発展させていますよね。

大串:高校生のとき、彼女欲しいなと思っていたんですけれど、彼女をつくるにはそれなりに女の子の友達が必要で、そのためには男の子の友達も必要ですよね。それと同じで、大きな出来事を達成する途中のフローって、実はすごく大事だと思っています。上場についても、そのような周囲の環境変化が、途中のフローにもなり得るかなと考えています。

― いきなり上場するぞ!と言って、それをみんなで勝ち取りに行くという方法もあるとは思いますが、大串さんのように周りで起こったことを上手に自分に引き寄せて、それに乗じて変化に対応しながら自分を変えていくことも重要な方法の一つですね。

株式会社mgn 大串肇氏 講演風景3

Q5.今後の展開(どうなりたいか)

― 今後はどういった事業展開をお考えですか?

大串:おかげさまで現在は、受託開発のお仕事があります。こちらはこちらで協力させていただいているお客様のビジネス的な成長が一緒に感じられるのはとても嬉しいです。

もう一つ考えているのは、Webに関するeラーニングのプラットフォームシステムです。現在、Webに関する授業を行い、録画した動画を資格や技術のスクールに提供しています。授業の録画などは自分たちでもできるので、月額やコース制にして、外部のスクールに提供するだけではなく、自分たちもプラットフォームを作りたいと考えています。と思いながら、数年経ってしまっているのですが・・・。小さくでも始めて、まずは形にしてから考えていければいいなと思います。

― 大串さんの得意分野を生かした面白そうな事業ですね。今後はどんな会社を目指していきたいですか?

大串:みんなでゆっくり穏やかに楽しく、勤めている人や関わっているお客様も含め良いチームで、みんなで充実した仕事ができて、幸せな生活を送ることができる、そんな会社にしていきたいと思っています。

― 本日はありがとうございました。