Practice Fields トークセッション:株式会社インクルードデザイン 代表取締役 北川 巧氏


株式会社インクルードデザイン 代表取締役 北川巧氏

2018年2/24(土)・3/3(土)・3/10(土)・3/17(土)に当センターにて開催されました、産業競争力強化法に基づく特定創業支援事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」にて行われたトークセッション内容をご紹介します。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ

第3回ゲスト:株式会社インクルードデザイン 代表取締役  北川 巧氏

1977年茨城県生まれ。10年ほど、建築の世界に身を置き、商業施設、オフィスビル、生産施設と数々のプロジェクトに参加。同時に建築以外のデザインに興味を持ち、空間や環境を整えるために、クロスジャンルのデザイナーを目指す。
起業後は「あなたとともにあるデザインを」をキャッチフレーズにインテリアから、ウェブデザイン、グラフィックデザインをワンストップで提案し、事業企画、ブランディングデザイン、マーケティングなどに関わる。現在、渋谷でデザイン会社(株式会社インクルードデザイン)を経営しつつ、企画、ブランディング力を生かしたコワーキングスペース「Connecting The Dots」を都内2店舗で運営。会員数5000名を超え、世界的経済誌 “Forbes JAPAN” でコワーキング10店に選ばれている。

株式会社インクルードデザインのWebサイト
Connecting The Dots SHIBUYAのWebサイト
Connecting The Dots YOYOGIのWebサイト

開催日:第3回 3/10(土)15:00〜17:00

Q1 創業の理由・動機

― 北川さんはもともと建築関係の仕事をされていたそうですね。

北川巧氏(以下、北川):はい。専門学校を卒業してから、著名な建築家である大江匡さんのもと株式会社プランテック総合計画事務所というアトリエ系建築設計事務所に6年間勤めていました。

― そこではどのようなことを?

北川:勿論、設計をやりたくて、はじめはアルバイトとして入りました。でも周りは超一流大学の建築学科を卒業している方ばかり。その中で自分をどう会社に売り込むか?を考えましたね。会社に必要とされる存在にならなければいけないと。それで社内ネットワーク管理のための人材が必要だと呼びかけがあったときに、思い切って立候補しました。知識や経験があったわけではありませんでしたが、Macやネットワークについて必死に勉強し、システム管理に必要なスキルを身に付けました。

― 設計事務所の他の人たちが持っていないスキルを身に付けたんですね。

北川:はい。当時20人ほどだった所員の中で、社内ネットワークの管理を任されました。会社にも認められ、晴れて所員になれました。それからはネットワーク管理と並行して二子玉川をはじめ、数々の建設プロジェクトに関わり、設計の担当者として任せていただけるようになりました。

会社は、アトリエ系建築設計事務所としては珍しいほど急成長して、僕が入社したとき20人だった社員が6年間で200人に拡大しました。社内ネットワークも外部に委託する規模になり、社内の仕事は一通り知ることができたと考えて、退職することにしました。

― そのまま独立されたのでしょうか?

北川:いえ、独立する前に他の会社を色々と見てみたいと思い、1年間という期限を決めて、派遣社員として大手ゼネコンやマンションディベロッパーなど計4社を経験しました。その後、株式会社プランテック総合計画事務所の副所長が独立して会社を創業されるということでお声かけいただきましたが、約3年後にリーマンショックが起こりました。その煽りを受けて退職となってしまいました。

良くも悪くも職を失い、独立せざるを得ない状況になりましたが、自分には設計士やデザイナーとしてのノウハウはあるものの、営業のスキルが全く無いことに気が付きました。そこで再度、派遣社員として、1年間営業の仕事に就きました。

― 設計やエンジニアのノウハウに加えて、営業のスキルですか!その時点で自分の持つ技術や人脈のみに頼って独立しなかったのはなぜですか?

北川:実は父も個人の設計事務所を経営していましたが、生粋の技術者気質でした。バブルがはじけた後、事務所の仕事が減っていくのを目の当たりにしました。父は「耐えるのも重要」と語っていましたが、仕事は減っていくばかり。そんな父を見ていて僕は「なんで営業しないんだろう」と思っていました。そういうこともあって、いざ自分が独立するタイミングで、「仕事を得ていく方法」をちゃんと考えておきたいと思いました。

― 営業として、実際にどのような仕事をされたのでしょうか?

北川:入社すると、まず営業計画をたてろと言われたんです。当時、建築に関する知識はあっても、営業についての知識はゼロでした。図面やCGのポートフォリオを見てもらっても会社にいくら売り上げを立てられるか?の方が重要なんです。

― 自分で何とかしないといけない状態ですね。

北川:お客様のところを一軒一軒、飛び込みをしたり、テレアポしてみたり、DMを送ったり・・・と一通り試してみました。だけどどれも非効率。もっと効率の良い集客方法はないものかと考えて、ホームページを作ってみることにしました。でも、ただ作るだけでは見てもらえないですよね。どうすればいいのかいろいろ模索して、SEOやウェブのマーケティングにたどり着いたんです。

― 今から10年くらい前のお話ですよね。SEOは当時はあまり知られていない方法だったのではないでしょうか?

北川:本当に手探りでした。協力業者さんにヒアリングしては、企画資料を整え、予算をもらい取り組んだのですが、結果、問い合わせを予想以上に増やすことができました。成果が出たことで、営業として社内でも評価されるようになりましたね。その後、退職して自宅のある町田市で創業しました。

オフィスデザインや内装設計を手掛けるデザイン事業を行う「インクルードデザインオフィス」を立ち上げました。自身でホームページも管理し、主にウェブ集客から受注して設計の仕事をしていました。

その後、2012年に「Connecting The Dots」というコワーキングスペース事業を渋谷で始め、2014年に渋谷店を増床、2016年に代々木に二号店を出店しました。

Q2 チームについて(誰とやるか)

― 現在の社内メンバーについて教えてください。

北川:僕を含めて社員が4人、アルバイトスタッフが6~7人程です。

― 社員を雇うとなると慎重になる方が多いです。北川さんはどのような採用方法をとっていますか?

北川: 面談した後、インターンシップとして3ヶ月~半年ほど働いてもらい、その後本採用という流れをとっています。デザインの仕事の場合、スキル以外にもクリエイティブのトーンや方向性を見極める期間が必要だと考えているからです。

― 採用を見極める期間が長いですね。

北川:これはデザインという仕事の性質が関係しています。例えば料理人なら、和食と洋食では全く作るものが違いますよね。「料理人になりたいです!」と入ってきても、和食を作りたいと思っている子に、洋食を作らせていたら、ミスマッチが起こります。だから単にデザインという括りだけではなく、お互いを見定める期間を設けています。

昨今は一般的になってきたインターンシップという言葉ですが、設計の業界では「オープンデスク」と呼ばれる、試験採用、実習の仕組みが昔からありました。

― インターンシップ制度をとることで、認識のすれ違いや入社後のギャップを防いでいるんですね。

北川:デザインの場合、一人前になるまで道のりは長いですから。取り繕って募集をしても、入社した後に失望されてしまっては、お互い損なんです。だからやってきてくれた子には本気で教えるというスタンスでやっています。

― 社会人になりたての子に本気で指導するとなると、落ち込んでしまう子も多いのでは?

北川:コミュニケーションを重要視していますね。新卒の子の場合、はじめてのことばかりなので、受け身になりがちですけれど、それは仕事と社員教育の中で意味を考えて、自律的に動いてもらいたいと説明しています。
こちらが指摘するところは、そのままにしておくと、どのみちお客さんに指摘されてしまい、クレームにも繋がってしまいます。本気で指導するのは、そういう理由もあります。ただ、厳しいことばかり言うだけではなくフォローアップも大切です。よい提案や結果が生まれた時には、必ずみんなと成功体験を共有して、評価します。

― 仕事のやり方を覚えるし、うまくいく楽しさはやりがいに繋がりますね。新しく入ってきた子に必ず教えることはありますか?

北川:戦況を判断して行動することです。仕事はスポーツに似ていると考えています。試合の状況は刻々と変わっていて、監督が万全の作戦を組んでも、その通りには行きません。仕事も同じで、今日決めた事が明日には違う状況になっているかもしれない。戦況を読む力、空気を読む力が重要です。
周囲を見て味方と敵がどのように動いているかを意識して、戦況を読まなければいけません。デザインの仕事も規模が大きく、多くなれば、チームプレイの中で、周囲の戦況をふまえ効率よく動くことが重要だという認識を日々共有しています。

 

Q3 事業の展開・転機

― コワーキングスペース事業を始めたきっかけについて教えて下さい。

北川:ある時、設計仲間で集まっていたときに、将来いろんな人が集まるシェアオフィス をやりたいと言ったんです。そこで海外のトレンドでコワーキングというスタイルがあるという話を聞いたのがきっかけです。

― 最初の拠点であるConnecting The Dots SHIBUYAはすごく良い立地ですよね。
Connecting The Dots SHIBUYA

Connecting The Dots SHIBUYAのホームページより引用

北川:当初は、渋谷で20坪前後の物件を探していました。あのビルに巡り合えたのはタイミングが良かったと思います。そもそもレンタルオフィスやシェアという言葉に対して、不動産オーナーの方はすごく慎重になるんです。保証金などを担保に、特定の人に貸して、その分きちんと使ってもらうというのが一般的です。しかし不特定多数の人が利用することで、何か予想外なことが起きるかもしれない、他のテナントに迷惑がかかるかもしれないとオーナーの方は心配されるんですね。

― 大家さんの信頼を得られたのも、北川さんの人柄が大きいのでは?

北川:いやあ、最初は煙たがられました(笑)
ただ、渋谷にコワーキングスペースを出店した2012年当時は、まだリーマンショックの余波で、都心空室が目立っていました。いまでは考えにくいですが渋谷の物件もかなり空きのある状態でした。たまたま運とタイミングが良かったですね。

Q4 資金調達について(自己資金・融資・投資)何を使ったか、どう考えているか。

― 資金調達はどうされましたか?

北川:日本政策金融公庫さんから融資を受けています。最初はインクルードデザインオフィスを創業したときで300万円借り入れました。

― 2度目は、コワーキングスペース事業を立ち上げたときでしょうか?

北川:はい。1000万円ほどの融資を受けました。

― かなり大きな額ですね。

北川:事業計画書をきっちり書いたことと、インクルードデザインオフィスとして開業して1年ちょっと経ち、前回までの融資をきちんと返済していたことで前向きに考えていただけたのだと思います。

― 事業計画書はどういった点に留意して書きましたか?

北川:「初期投資と人・モノとしての使い道の結果から、こういう形で売上と利益が生まれる」という事業の流れを明確にすることを意識しました。またホームページとパンフレットなどの案内も作っておき、持参して相談しました。

― VCも検討されたそうですね。

北川:ちょうど海外大手シェアオフィスWeWorkの日本進出が持ち上がった時、VC界隈で国内のシェアオフィスの企業に出資しようという機運が高まりました。僕たちにも声はかけてもらいましたが、最終的には出資はやめることにしました。

― 銀行からの融資とVCからの出資はどういった点が異なりますか?

北川:当たり前ですが、金融機関からお金を借りた場合は、毎月お金を返さなければいけません。事業計画書をきっちり遂行して、自己責任でやれるのであれば銀行から借りた方がいいと思います。

一方、VCから出資を受けるとなると、資本比率や事業と会社の行く末など、意見する人や、考える事が多くなります。金融機関はお金を返済していれば、それらに突っ込まれることはありません。VCからの調達は資金規模が次第に大きくなって行きますから、短期間で事業の成長が望めます。また、銀行からの融資の場合は、予算の範囲内で、自己責任でやりたいことをやっていけるのがメリットだと思います。

 

Q5 今後の展開(どうなりたいか)

― 北川さんは今後どのようなことをやっていきたいと考えていますか?

北川:組織として、企業文化を社員に浸透させていくことです。自分も含め社員には「自分は決して一流ではない」という意識を持ってほしいと思います。

株式会社インクルードデザイン 代表取締役 北川巧氏

― 「自分は一流ではない」というと?

北川:まず、僕の仕事のモチベーションに「貪欲さ」があります。人が良いと評価していても、そのまま素直に受け取れない性格なんです。何かしらを自分がリセットして作りたいと考えてしまいます。「無いものは作ればいい、無い仕組みは考えればいい、無い能力は雇えばいい」という意識のもと、目的を達成するためにはどうすればいいかを純粋に貪欲に考えます。この貪欲さを失わない為には、「自分は一流ではない」という自覚が大切だと考えています。

― 社内にもその意識を共有したいということでしょうか?

北川:はい。社員にも「僕らは一流じゃないけど、一流を目指そう」と話します。日々、技術もトレンドも新しくなっていますから、今に満足しない心持ちが大事だと思います。

― 一人一人に自分の思いを伝え続けることで、会社の文化は醸成されていくんですね。事業の面ではどのような展開を考えていますか?

北川:現在シェアオフィス事業とデザイン事業の二つを行っていますが、今後は特にデザイン事業を拡大し、安定させていきたいです。

― 現在のデザイン事業は、どのような課題があるとお考えですか?

北川:デザインはカッコつけているもので無くても良いと世の中で思われてしまうことが多い仕事です。例えば内装の見積もりを出しても、内装工事費は通りますが、設計デザイン費は通らない場合があります。お客さんにとっては、まだまだ必要不可欠に感じてもらえないジャンルなんです。

― デザインを取り入れたことで得られる成果は、なかなか数値化しづらい側面がありますよね。

北川:ですが、社会的にデザインを音楽のように感じ取ってもらいたいんです。例えば音楽は、無形でありながらお金を払うべきだと認識されています。同じように、デザインがあることで間接的にこういったものにこれだけ寄与しているということを理解してもらえるようなソリューションを考えていきたいです。

― デザインに対するリテラシーを高めていく?

北川:はい。僕としては、答えを簡単に導き出せそうにない問題に興味があります。デザイン業界全体の課題で難儀なことですが、何か模索していきたいです。

― 本日は貴重なお話ありがとうございました!