2016年3/5(土)・3/12(土)・3/20(日)・3/27(日)に当センターにて開催されました、産業競争力強化法に基づく特定創業支援事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」にて行われたトークセッション内容をご紹介します。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ
第1回ゲスト:有限会社ノオト 代表取締役 宮脇 淳氏
1973年、和歌山市出身。
コンテンツメーカー、有限会社ノオト代表取締役。「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」編集長。東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」管理人。Twitterメディア『トゥギャッチ』運営者。主力事業は企業サイトのメディアづくり。主な取引先は、トヨタ自動車、adidas Japan、ヤフー、LINE、パソナ、再春館製薬など。
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開催日:第1回 3/5(土) 第2部 16:00〜18:00
【前編はこちら】
Q3 事業の展開、転機
― 宮脇さんは『R25』の創刊編集メンバーの一人でもいらした。たまたま有限会社ノオトの設立日と創刊日が同じ日だったとか。
宮脇:はい、これも運がよかった一例で、『R25』の創刊準備号から編集者をやっていましたというのは、それ自体がもう名刺になるんです。しかも、記事の終わりには必ず「宮脇/ノオト」と署名を入れてもらっていました。
同業者や近しい業界の人たちに、これが見られているんですね。見られる位置にポジションをおくことはかなり意識しています。
今もインターネットの企業のメディアでも、できれば署名入りにさせてくださいとお願いしています。ライターさん自身も名前が出れば喜んで「これは自分が書いた記事だ」と周囲に広められます。小さな一歩かもしれませんが、書き手を起点として周囲の生活者に情報が届くようになる。誰が書いたかわからない記事ではなく、きちんと書き手をはっきりさせるメリットを企業側も無視してはいけません。
― 紙ではなくwebメディアのほうに舵を切って、トヨタの『GAZOO』のようなオウンドメディアの記事を制作しています。これは代理店経由ではなく直仕事とのことですが、どうやって契約できたのですか?
宮脇:経緯を話すと長くなるのですが、リーマンショック後の2009年-2010年は広告業界の景気が一気に冷え込んで、ノオトは二期連続赤字になりました。広告仕事のギャラは編集仕事に比べて高額だったのに、それがごっそりなくなった。
でも、同じ水準で稼がなくてはみんなの給料が払えない。私の役員報酬を数分の1に下げましたが、社員の給料は下げなかったんです。苦しい時期だったと思います。
しかし、3年連続赤字はどうしても避けたい。それなら広告仕事の収益に頼らず、原点回帰みたいな意識が働き、もっとコンテンツをしっかりつくっていこうと考えました。
そんなタイミングで、企業側からオウンドメディアのコンテンツ制作に関する相談が増え始めたんです。たまたまその流れの先頭がトヨタの「GAZOO」案件でした。
もともとWIRED時代に机を並べていた元編集者からの紹介で、本社の部長さんから直々に声をかけてもらった形です。どこからつながっていくかわからないものだなぁ、と思いましたね。
このころ以降、企業のテレビCMよりもネットにお金を使おうという流れが何となくできてきて、そういう仕事がジリジリと増えてきました。
メディア作りって、広告代理店の仕事分野とはちょっと違うんです。広告主が言いたいことを一方的に伝えるのではなく、読者に寄り添ったコンテンツが必要になってくる。
広告よりも単価を抑えながら、いかに編集記事を量産していくか。いま振り返れば、一つの新しい仕事が生まれた瞬間に立ち会ったのかもしれません。
― 過去のつながりを大切にすること、質のいい仕事をすること、正当な単価を得るための努力をすることが大事なのですね。
宮脇:そういう意味では、いまだに見積もりに一番苦労します。
ふっかけるのではなく、適正価格を自分の中で持つことが大事だと思っています。どんな業界でも価格設定は肝ではないでしょうか。安く受けすぎるとこちらが苦しむだけですし、高すぎるのはクライアントに対して不誠実ですから。
ただ、業界水準からすると、「ノオトさんはちょっと高いですよ。もっと安くしてくれるところもあるよ」と言われることもあります。
でも、「うちはライターをちゃんと食べさせていくことができる会社にしたいので、これが適正価格です。これ以上は安くできません」と答えます。見積もりは本当に難しい。
― 安いフリーライターさんを使ってコストを下げるのが当たり前のようになっているところを、そこを敢えて正社員を雇用して、ちゃんと育てて書けるようにする。また、フリーランスのライターさんに正当な報酬を支払うことで、その原稿の質も高めていく。納品物の質を担保するからこそ、割り引いたりせずに正当なお金をいただく。
言うはやすしですが、なかなかできることではありません。
宮脇:難しい面もありますが、マンパワーが大事な仕事で、システマティックなビジネスモデルをつくる業種ではないんです。
飲食店で言えば、ファストフードではなく「一見さんお断り」のお店に近いのかもしれません。これは高級志向という話ではなく、質には妥協せずに仕事していきたいですから。
― どんな仕事でも、お客様を誰にするか、そのお客様がいったい幾らお金を持っているのか、幾らお金を払う人なのかを見極めて、自分が苦しくならない値段設定をしていく。安かろう悪かろうは、実は世の中のためにもならない。みんなで貧乏になっていってしまいます。
そういう意味でも、矜持を持って自分の値段を適正に設定することは大切ですね。
宮脇:お金の話は難しいから外ではあまりしないのですが、値付けは本当にみんな悩んでいますよね。
うちの値付けの仕方は秘伝のタレのようなもので、過去の見積りや現在の需給関係を考慮しています。予算がないという案件でも、なるべく価格交渉はしっかりします。
Q4 資金調達について(自己資金・融資・投資)何を使ったか、どう考えているか。
― 資金調達の方法は、自分で出すか、融資か、投資を受けるか、営業して売上げを上げるかですが、ノオトさんは?
宮脇:最初は自己資金のみでした。そこから売り上げを伸ばすことで、現金をしっかり積み上げてきましたね。
その次の段階が借入金です。
先ほどお話ししたリーマンショックのちょっと前に、たまたま税理士さんから「借りられるときに、借金の実績をつくっておいたほうがいい」とアドバイスを受けて、そんなもんなのかとあまり考えずに、実績づくりのために日本政策金融公庫(当時は国民生活金融公庫)から1,500万円を低金利で借りました。
それがたまたま2期連続の赤字分をきれいに補填してくれたという。運が良かったです(笑)。
現金を持っておくことは悪いことではないので、借りられるときに借りておくといいと思います。
あと、支払いサイトの関係がありますね。お客様からお金をもらってから支払いができれば一番いいんですが、ノオトではクライアントからの入金前にライターさんなど外注先に支払いを済ませるようにしています。
「ノオトは金払いがいい。だから仕事も優先的に受ける」とフリーランスの皆さんに思ってもらえると、それがまた評判になる。そのためにも、余力としての現金は持っておきたいですね。
― お金をどう動かすかということは重要ですね。それでいいライターさんが残ってくれる。
宮脇:そうですね。そのために銀行をうまく使うといいと思います。会社設立時に銀行口座をつくるじゃないですか。私は深く考えずに三井住友銀行にしましたが、残念ながらメガバンクは小さな会社に対してびっくりするくらい何にもしてくれない。
結局、3つ目の銀行口座を信用金庫か信用組合で開設しようと考えて、それでオフィスの近くにあった第一勧業信用組合で口座を開きました。
品川区の融資制度を使うときにも、第一勧信さんには大変お世話になりました。やっぱり小さな会社は、そういうところとのお付き合いを密にするといいと思います。
区や市でどんな融資制度があるかを調べてみるのも大切です。私は品川区の「融資あっ旋制度」を使って、いまは3年間無利子の好条件で1,250万円(上限金額)の融資を受けています。
― そうですね。自治体によって多少制度の中身が違うので、お調べになるといいですね。
一方、開業後は営業をして利益を生むことが当然ながら大切です。つまり、本業でいかに稼ぐか、ですね。自社の営業活動はどうされていますか?
宮脇:実は会社設立以来、営業らしい営業をしたことはありません。
そもそも営業経験がゼロですし、一度も経験がないのでやったことがないというより「できない」というのが正しいのですが。
代わりにといっては変かもしれませんが、私自身は仕事を2種類に分けています。
一つはしっかりお金を稼ぐ仕事、もう一つはお金を稼がない仕事です。後者は自社運営している地域ニュースメディア「品川経済新聞」ですね。
もちろん、本来は自社メディアでもしっかり稼げると良いのですが、メディアビジネスは広告を獲得するか読者に有料でコンテンツを提供するかのどちらかになります。前者は営業マンがいないとダメですし、後者は無料のネットコンテンツが溢れている現状では相当厳しい。
品川経済新聞は正直、月額のサーバ代を稼ぐのが手一杯で、人件費は完全に赤字です。
しかし、赤字部門だからといって止めるつもりはありません。というのも、稼げない仕事はショーケースだと考えているからです。
品川経済新聞は地域のニュースを平日1日1本コツコツと更新しています。もちろん、取材していますし、完全オリジナルの記事です。
こういったメディアを運営していることで、質の高いコンテンツ制作のノウハウがあることを外に向けて宣伝できている、と。そこから「うちのメディアづくりについて、相談に乗ってもらえますか」という流れができる。定食屋の前においてある食品サンプルのようなものですね。
同時に、社内の若手社員が記事を書く力を鍛えるトレーニングメディアにもなっています。こう説明するとみなさん、とても納得してくれます(笑)。
もちろん、積極的に攻めの営業をしたほうがいい業界もあるでしょう。
ただ、小規模事業の場合は、実績を起点に口コミで仕事が広がっていくような戦略がいいのかなと思いますね。
― 特にスモールビジネスの場合は、人のつながりが全てというところもありますよね。
宮脇:おそらくノオトは、ずっと営業マンを雇わない会社のままになりそうです。自分たちの実績をなるべく業界関係者やクライアントに見える位置に置く守りの営業といいますか。お問い合わせやご相談をいただいた場合は、私自身が守備的営業マンとしてお話を伺うようにしています。
Q5 今後の展開(どうなりたいか)
― 2004年に「コンテンツメーカー」として名乗りを上げられたそうですね。当時、そういう言葉は使われていなかった、とも。12年後の今、有限会社ノオトは編集プロダクションというよりは「コンテンツメーカー」というほうがしっくりくるようになっていますね。
宮脇:編集プロダクションという言い方は、出版業界ではよく使われますが、一般の方にはなじみがないかもしれません。
そもそもこの業界で、編プロのイメージは良くないんですよ。給料も安いし、徹夜が続くみたいなブラックなイメージですし。まずはそのイメージを変えたかったのもあります。
それと、これからはネットだろうなと思ったときに、コンテンツという言葉を意識し始めました。「家電メーカー」「自動車メーカー」が一般的な呼称なら、じゃあうちはコンテンツをつくるメーカーだ、と。
名刺交換の時も、「有限会社ノオト」だけだとなんの会社か分かりづらいと思ったので、会社名のすぐ上(ショルダー)に入れるようにしました。「コンテンツメーカー 有限会社ノオト」と書くことによって、名刺交換のときに「コンテンツメーカーですか」と聞かれたりする。そのときに、「いわゆる編プロなんですけども、こういうことをやっているんです」と、どんな会社なのかを話すきっかけにしやすくなりました。
そういう意味では、ネーミングは疎かにしてはいけませんね。社名も大事ですが、その上に付ける一言が大事。
2004年に「コンテンツメーカー」と付けることができたことはラッキーでした。最近、業界内で「コンテンツメーカー」という言葉が少しずつ使われるようになってきましたが、これはうちが最初に名乗り始めたんですと、自慢できます(笑)。
― 宮脇さんは、「CONTENTZ」というコワーキングスペースも運営されています。ライターさんや編集者さんがリアルに集まる場を運営されていて、これが道場のような役割をしている。言葉が適切ではないけれど、自分のところで使えるライターさんや編集者さんを養殖している(笑)。コワーキングスペースでは月に1回ペースで交流会を開かれていて、100人くらいの集まりになることもありますよね。
宮脇:忘年会は100人、新年会は60人、レギュラーの交流会は40人くらいが集まりました。現在はライター交流会とコンテンツ交流会の2種類を定期開催していて、性質が違いますが、毎回数十人くらいは集まるという感じです。
仰るとおり、人材の確保だったり、人と人とのつながりを作る場、コミュニティづくりにも大いに注目しています。
― これからもノオトさんは、コンテンツメーカーであり続けることは間違いないと思うのですが、「これからどうなりたい」と思っていらっしゃいますか?
宮脇:やはり後継者ですね。今のノオトは、どうしても宮脇に仕事が来ている状態です。それを「ノオトには〇〇がいるから」と、いまいる社員宛てに指名がくるようになっていきたい。そうすると私もだいぶ楽ができます(笑)。
年齢もありますからね。20代のときは4日間、一睡もせずに仕事したこともあります。耐えられるだけの強靱な身体と精神力があったんです。しかし、40代になった今はもう、徹夜は無理です。すぐに眠くなってしまう。
だから、うちの若い子たちがさらに質のいいコンテンツをつくってくれれば、よりよい待遇で働いてもらえるよう会社としても努力していきます。
そういう会社になっていけば、ノオトは生き残っていけるかなと思っています。
― 存在感のある仕事ができる人。自分の顔と名前で世を渡る人、切り込んでいける人ですね。
宮脇:そこまで優秀な人材として育つと、会社を辞めちゃう可能性もありますけどね。
― それはそれで、また良いことになるということでしたね。
宮脇:はい。ただ、最近はフリーランスになるのではなく、ずっとノオトで働きたいと言ってくれている社員が増えています。
起業するって大変じゃないですか。登記をして月々の自分の役員報酬をどうしようとか、経理をどうしようとか、そういうのは仕事をする上でものすごく大きな負担になります。
うちの看板を背負って働くほうがいいという選択をして、それで残ってくれる社員を育てていきたいと思っています。
― ありがとうございました。今日は、有限会社コンテンツの秘伝のタレを舐めさせていただいたような気がします。
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