耳の形をしたマイクから録音された音をヘッドホンで聴くと、まるでその場に自分が立っているかのように立体的で臨場感に溢れた音が聞こえてきます。これまでは大がかりな機器が必要だったそんな音の録音をスマホで簡単に楽しめる機器を山田さんは開発しました。
今回のインタビューでは、立体音響に特化した音響機器の開発から販売までを手がける当センター利用者の山田さんに、創業のきっかけや思いなどを伺いました。
WHISMR合同会社 代表 山田裕司氏
~プロフィール~
ソニー株式会社にて立体音響機器開発に従事し、サラウンドヘッドホンなどの数多くの製品を世に送り出す。
オーディオの楽しみは、製品を『手にした時に感じる高揚感』に始まるとの思いから、お客様が思わず手にしたくなる“ものづくり創業”を決意。
東京都の「多摩ものづくりスタートアップ起業家育成事業」の採択を受け、立体音響専門ブランド“WHISMR” を2023年10月に設立。
WHISMR合同会社 HP:https://whismr.com/
現在の事業内容について教えてください。
立体的で臨場感や没入感に優れた音を録音することができるバイノーラルマイクの開発、販売を行っています。
ここ数年でバイノーラルマイクを使って、立体音響だけではなくASMRなどの新しい使い方をしてみたいというニーズが主に若年層の間で急速に増えてきています。しかし、安くても10万前後、高い物は100万円を超える商品もあり、高額な価格や、複雑な接続、周辺機器が必要なことから、一般の方には参入障壁が高いのが現状です。そこで、もっと簡単に手にすることができて、立体音響の面白さを楽しめる機材を提供したいと開発したのが、今回発売したスマホと接続することで録音できるバイノーラルマイクです。クラウドファンディングを活用し支援を集めることに成功した結果、商品化に至ることができました。現在はECサイトで販売をしつつ、さらなる開発、改良を進めています。
創業しようと決めたきっかけは何ですか?
長く会社員として、音響に関する設計開発に携わってきました。どんなに手応えや自信があったとしても、「確実に利益が出るのか」「台数が見込めるのか」といった点が会社の意思決定で重視されてしまい、商品化できずに埋もれていったアイデアが数多くありました。このままだと永久に日の目を見ないで終わってしまうアイデアを形にするには、自分が商品化の判断をできる立場でやるしかないと考えたことが理由の1つです。
創業する際に大変だったことは何ですか?
機器の開発は苦労もしますが、結構楽しみながらできています。しかし、1人で創業したので、開発だけではなく今まで他部門でやってもらっていた経営的な業務も自分でやらないといけないということが一番大変でした。Webで情報を集めつつ、高田馬場創業支援センターや他の創業支援の機関でアドバイスをいただきながらやってきています。
また、「ものづくり」で創業しようとした場合、アイデアだけで勝負できる訳ではありません。プロトタイプの試作、市場調査や量産を意識したノウハウも必要になるため、ものづくりに対する支援やバックアップをしてくれる施設も活用しました。
新宿区を事業拠点にしようと思ったのはなぜですか?
新宿区は日本の中心地であり、色々なメーカーさんとお付き合いをする上でも非常に効果的であると思ったことと、新宿には大型家電量販店が多く、電気製品を販売する上で「世の中が今注目している物は何か」という空気をいち早く感じやすいエリアなので、新宿で創業しようとを考えました。
実は学生時代、早稲田大学の理工学部で学んでおり、高田馬場界隈は将来の夢を抱きながら歩いた場所でもあります。会社を立ち上げ、また新たに一歩、歩き始めることを考えた時に、当時を思い起こして再スタートするには絶好の地だということで高田馬場創業支援センターに入居しました。
今後の事業展開、ビジョンについて
まずは発売したバイノーラルマイクに入りきれなかった機能をスマホアプリのソフトウエアで追加していきたいと考えています。既に市場にある製品を単に安くして出すだけでは意味がないので、市場になくて、人々の琴線に触れる機能をいかにして入れ込むかにこだわり、「買ったら終わり」ではなく、買った後もまだまだ楽しみが続くような、サービスや製品を提供していきたいなと思います。
立体音響に関わる音響機器というのは、録音機器だけではなく、スピーカーのような再生機器など、入口から出口まで様々な切り口があります。録音機器からスタートしましたが、将来的には「立体音響」での専門性を活かし、様々な切り口で商品を提供できるブランドを目指していきたいです。
創業を目指している方にメッセージをお願いします
どのようなステージで起業されるかによって、アプローチの方法などは全然違ってくると思いますが、私のようにある程度の年齢から起業を目指すとなると、1つのシナリオだけを押していこうとしてもそれは厳しい。うまくいかなかった時はシナリオBへ、あるいは1度立ち止まることも含め、いくつか落とし所を準備しつつ進めていくという、慎重な方法をとることも必要な気がします。
もう一つは、やはり家族の協力があってできることなので、家族の理解や協力への感謝も忘れず進めていくことが大事です。