Practice Fields トークセッション:クロゴ株式会社 代表取締役 請川 貴之氏


2018年2/24(土)・3/3(土)・3/10(土)・3/17(土)に当センターにて開催されました、産業競争力強化法に基づく特定創業支援事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」にて行われたトークセッション内容をご紹介します。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ

第1回ゲスト:クロゴ株式会社 代表取締役 請川 貴之氏

1972年生まれ。東京農工大学工学部卒。海外・国内の旅行添乗業務、旅行業e-マーケットプレイスの立上げ・運営の経験を経て、2003年、フォートラベル有限会社(現在、フォートラベル株式会社)を創業し、「旅行のクチコミサイト フォートラベル」をスタート。
2005年に同社は、株式会社カカクコムの完全子会社化。月間利用者200万人の旅行メディアに成長させ、2008年同社退任。2010年、クロゴ株式会社を創業し、航空サイト「FlyTeam(フライチーム)」をスタート (2017/12時点:月間利用者150万人)。2016年、鉄道サイト「レイルラボ (RailLab)」をスタート。

開催日:第1回 2/24(土)15:00〜17:00

Q1 創業の理由・動機

― 請川さんはいくつかのサイトを立ち上げていますよね。一番はじめに立ち上げたサイトについて教えて下さい。

請川 貴之氏(以下、請川):旅行のクチコミサイト フォートラベル」という旅行全般に関する口コミサイトです。大学卒業後、20代の頃は添乗員として働いていました。添乗員だった6年間くらいは、1回のツアーで2~30人くらいの団体ツアーを毎月3、4本ほどやって、国内・海外のいろんなところを行かせていただきました。1泊2日のツアーから10日間のものまでやっていて、年間に1000人くらいのお客様を旅行にご案内していました。

ツアーの同行を重ねるうちに、お客様が喜んでくれそうだと思うことを考えてやる、感動していただけるようなことを考えてやるということが身について、どんなお客様にも楽しんでいただけるという自負が生まれてきたというか…。

「このお客様は、ここきっと泣くほど感動してくれる」ということが自然にできるようになったと感じたんです。それで添乗員としてやれることは全てやりきった、このまま添乗員を続けていくべきかどうか考え始めたんです。そして、もっと広く旅行の楽しさを伝えたいと思うようになりました。

そこで海外の観光地情報を調べるために私自身も利用していたインターネットを介すればもっと多くの人に旅行を楽しんでいただけるんじゃないかと考えたんです。そう思い立った頃に、たまたま海外旅行に関するニュースサイトを運営する会社の求人を目にして、添乗員から転職しました。

その会社では、自社のシステムは外部の会社に外注していて、私は主にシステム会社との調整役を任されていました。小さい頃からベーシックマガジンなどを読んでパソコンを触っていましたし、大学は工学部でしたから、プログラミングには馴染みがありました。そのうえで、この会社でプログラミングのスキルを本格的に学ぶことができました。

どんな事業でもそうだと思いますが、経験のないこと、馴染みのないことを「やりたい」という気持ちだけで始めるのは危険だと思いますね。

― そこから「旅行のクチコミサイト フォートラベル」を立ち上げたきっかけは何でしょうか。

請川:転職した会社は、旅行会社同士を繋げるソリューションを提供するB to Bの会社でした。私は添乗員の経験があったので、どちらかといえばB to CやC to Cをやりたいと思っていました。そんな思いが高まっていく中で、取引先であった旅行サイトの知人と「コンシューマー向けのサイトをやりたい」と話を重ねていました。

ちょうど彼が会社を辞めるタイミングで、一緒に事業を立ち上げようということになり、2人で会社を設立することになりました。その会社で立ち上げたのが「旅行のクチコミサイト フォートラベル」です。

― なるほど。添乗員時代の経験が生きているんですね。

請川:そうですね。私は旅行会社に依頼されて、添乗員としてツアーに同行するというスタイルで仕事をしていて、ツアー報告のために毎回詳細な旅行日程を作っていました。添乗員が管理している旅行日程の詳細は、お客さんがすごく欲しい情報だと思ったんです。

一方で旅行会社さんとしては、その通りにツアーが進まなかった場合、クレームに繋がるリスクがあるので、ざっくりした行程表しか渡せないんです。旅行会社さんが踏み切れない理由もよくわかる。そうであれば、実際に旅行に行った人が「こんな旅行だったよー」ともっと他の人に伝えるサービスがあればいいなと思い、旅行専用ブログというアイデアに辿り着きました。

― 2005年にカカクコムさんの完全子会社化にされたあと、2008年退任されたんですよね。

請川:はい。きっかけのひとつは家族です。カカクコムさんの完全子会社となったことで、事業がどんどん大きくなり、自分が責任をもって行う仕事が増えていきました。仕事自体は楽しくて、自分もついついのめり込んでいたのですが、ふと「子供も生まれたのに、子供が起きている時の顔を見ていない」ということに気付きました。ちょうど妻も新しく仕事をはじめたいと言っていた頃だったので、一度私が子育てに専念しようと考えました。周りの方々と相談して、業務を引き継ぎ、退任させていただきました。

― 思い切った決断ですね。その後、2010年に「FlyTeam(フライチーム)」を立ち上げていらっしゃいますが、こちらのきっかけは?

請川:こっちのきっかけも家族と関係しているんです。しばらく子育てに専念しましたが、だんだん子育て疲れを感じるようになってしまって。子供はものすごく可愛いんですが、育児だけをずっとやっていて、いつからか「ちょっと、専業主夫はしんどいな」と思うようになりました。

同時にフォートラベル時代からずっと温めていた「飛行機に特化した口コミサイト」というアイデアを実現したいという思いが強くなってきました。たまたま私がイギリスに留学した時のホームステイ先のご主人が「スポッター」で、彼に連れられて飛行機を見に行った経験が発端です。日本で「鉄ちゃん」と呼ばれる鉄道ファンと似ていますが、海外では飛行機の観測や撮影を趣味とする人たちを「スポッター」と言うんです。

また添乗員時代に空港で大きいカメラを構えて飛行機を撮影している人をよく見ていたりもしていて、飛行機に対するあるニーズを意識していました。旅行全般よりも何かに特化したら面白いサイトができるんじゃないかという思いとその経験から、「FlyTeam(フライチーム)」の構想を練っていました。

悩んで妻に相談したところ、「おもしろそうだし、やってみたら」と後押ししてもらい、9時から16時までは幼稚園に子どもを預け、その時間に「FlyTeam(フライチーム)」を1人で作りはじめました。

― 子供を預けている時間に仕事をバリバリやって、子供が帰宅したあとや土日には主夫としての時間を過ごすという生活でしょうか?

請川:はい。妻も仕事を続けていたので。

― 自分のライフスタイルややりたいことに合わせて仕事や家族との過ごし方を変えていく。これからの時代の生活スタイルの一つの選択肢ですね。

請川:インターネット事業なら、どこでも何時でも自分の好きな場面で仕事ができると思っています。フォートラベル時代も同じことを考えていましたが、当時は添乗員の経験はあったものの、経営者としては勉強不足で、そのような仕事のやり方を上手く機能させることができませんでした。その反省が今のスタイルにとても生きていると思います。

Q2 チームについて(誰とやるか)

― 現在のチームメンバーについて教えて下さい。

請川:フルタイムで働いているスタッフは、私ともう1名、週4日のスタッフが主婦と学生の2人、週3日程度ほとんどオンライン上でやりとりしているスタッフが5人です。

― どのようにチームメンバーを増やしていきましたか?

請川: 1人でできることは限られているので、 「自分の持っていないものを何かしら持っている人」をキーワードにチームを組んでいきました。私は耕すことは得意ですが、それをきれいに整地することは苦手なタイプです。それから「これをやるから募集します!」というかたちよりも「これをやりたいけれど誰かいないかなあ。あ、いた!」というかたちで増えていくことが多いです。

例えば、「FlyTeam(フライチーム)」を2010年3月頃から作りはじめて、同年7月頃に公開しましたが、PVが伸びない状態が半年くらい続きました。そんな中で、サイト上に飛行機に関するニュースがあれば集客につながるかなと思い付きました。FacebookやTwitterなどのSNSが拡大している頃で、ニュースを流すと人が反応しやすい環境だと考えたんです。

ちょうどその頃、「FlyTeam(フライチーム)」のユーザーに、たまたま知り合いの編集関係の方がいらして、サイト上でのやり取りをきっかけに、何度かご飯を食べに行くことになったんです。「航空専門のニュースサイト、面白いと思うんですよね。やってくれる人を探しているんですよね」という話から「じゃあ、やってみる!」と。それが最初のメンバーが入ってくれたきっかけです。私は「飛行機に関するニュースをサイト上に作る」というコンセプトを耕すことは得意ですが、「実際にニュースを書く」という整地の段階はチームメンバーに頼みました。

― まさにご縁ですね。他にはどんなきっかけがありましたか?

請川:週4日働いている大学院生の子も「FlyTeam(フライチーム)」のユーザーさんでした。ある日、彼から「何か手伝えることはありませんか?」と連絡がきたのがきっかけです。彼は私なんかよりも飛行機や鉄道に関する知識が豊富で、まさに自分にないものを持っているなと感じています。

― では、採用活動などは今までしたことはないのでしょうか?

請川:今もサイト上に募集を出しています。そこにはいい人がいればいつでもお願いしますという切実な思いがあります。例えば今、週4日働いている主婦の方は、前職で一緒に働いていた方ですが、サイトの採用募集を見て連絡をくれました。エンジニアとして私より非常に腕が良くて、システム関連の仕事を任せています。

― 多彩なメンバーですね。スタッフをきちんとアテンドできれば、サイトも充実するし売上にもつながっていきますね。

請川:そうですね。「PVが増える=喜んでくれている」と考えているので、ユーザーさんが喜んでくれるためにサイトを充実させることを目的に、チームスタッフと協力して取り組んでいます。そこは添乗員時代と同じ気持ちです。大事なことは「お客様に喜んでいただくためにはどうすればいいか」ということですから。

サイトに投稿してもらっている写真は、ユーザーの方からお預かりしているものです。古い写真の飛行機だと1950年代頃の写真がアップロードされていたりして、後世の人にも見てもらいたいと思っています。

投稿していただいた方も、自分のアップロードした写真をずーっと誰かに見て欲しいと思っているはずなので、個人のスキルに依存するのではなく、「FlyTeam(フライチーム)」を組織の力で継続する体制をつくるというのが、ここ10年15年で考えなければならないところだなと思いますね。

― そういう意味では「FlyTeam(フライチーム)」は一企業の持ち物というより、公器になるんですね。

請川:そういうふうになればいいなと思います。

Q3 事業の展開・転機

― 改めてクロゴ株式会社の事業について、詳しく教えていただけますか。

請川:航空口コミサイト「FlyTeam(フライチーム)」と鉄道の口コミサイト「レイルラボ(RailLab)」の2つのサイトを運営しています。2010年から始めた「FlyTeam(フライチーム)」は現在月間1000万PVほど、2016年からスタートした「レイルラボ(RailLab)」は月間数十万PVほどです。ホームページ制作の請負事業は行っておらず、上にあげた2つの自社サイト運営のみで事業を行っています。

― 2つ目のWebサービス「レイルラボ(RailLab)」はどのようにして展開されたのでしょうか?

請川:添乗員時代に案内した寝台特急のツアーなどの経験から、鉄道好きな人は身近に見てきたので、もともと十分なマーケットはあると感じていました。実際に立ち上げるきっかけとなったのは、一緒に働いている2人のメンバーです。1人は大学院生のメンバーで、彼はものすごく飛行機好きであると同時に、ものすごく鉄道も好きなんです。

私の中でアイデアとしてはあったのですが、彼の「僕、鉄道のサイトやりたいです」という一声が「レイルラボ(RailLab)」の立ち上げの後押しとなりました。もう1人は以前一緒に働いていた方です。当時「FlyTeam(フライチーム)」のPVが伸びていく中で、データやサーバーメンテナンスを行ったりといろんな作業が必要になっていました。実際にもう一つサイトを立ち上げるとなると、僕だけでは到底手が回らない。そんな中、手をあげてくれる人がいたのは大きかったですね。

― 「FlyTeam(フライチーム)」で順調にPVが伸びている中、「レイルラボ(RailLab)」はどのような勝算があると考えましたか?

請川:先ほど述べたように、鉄道のニーズは十分だと考えていました。それから飛行機好きの人はもともと鉄道が好きだったことが多いんです。

― そうなんですか!

請川:はい(笑)。鉄道は決まった時間と場所にやってくるので、比較的簡単に写真を撮ることができます。それに対して飛行機は風向きによって降りてくる方向が違うことやスピードが速いことから、写真を撮ることが難しいんです。もともと鉄道を撮っていた方が飛行機に転身することは案外多いんですよ。

― 飛行機や鉄道などかなりニッチな部分に事業を展開していらっしゃいますが、収益性の面では不安になりませんでしたか?

請川:これも添乗員時代の経験ですが、人の心を揺さぶる瞬間はとても価値のあることだと考えています。特にニッチであるほど「こういうのが欲しかったんだよ!」と喜んでくれる人は必ずいると確信していました。ニッチであることに対して恐怖や不安はあまり感じませんでしたね。まあ考えていないだけかもしれませんが(笑)

Q4 資金調達について(自己資金・融資・投資)何を使ったか、どう考えているか。

― どういった資金調達を行っていますか?

請川:私はずっと自己資金です。サイト運営は、飲食店や雑貨屋を始める事と比べたら初期投資を抑えて始められるのが特徴だと思います。最初はパソコン1台と、月5000円~1万円ほどのサーバー代くらいで始められます。自分の収入が2年間なくとも生活できる状態であれば大丈夫ですね。

― 最低限の資金と自分の経験をもとに事業を立ち上げられたんですね。

請川:そうですね。もし万が一何かあった場合は、サービス開発を一旦ストップし、お金がかからないように運営して、自分の生活費が稼げるくらいに働けばいいかなと考えていて、妻にもそう伝えていました。「自分が生活していけるかどうか」ということが基準でした。

Q5 今後の展開(どうなりたいか)

― Webサイトを立ち上げてPVを稼ぐビジネスモデルは、一見参入障壁が低そうにも思えます。今後競合が出てくる可能性についてはどうお考えでしょうか?

請川:おっしゃる通り、サイトのノウハウ等が筒抜けであることから参入障壁が低いと思われがちです。しかし、私は意外と参入障壁は高いんじゃないかなと思っています。ニッチな分野なので、同じように考えて実践まで出来る人は意外と少ないと考えています。ニッチであればあるほど、競合が出てくる可能性は低いと思いますね。

― これまで、ライフステージに合わせて働き方を変化させてこられたと思うのですが、今後はどのようにお考えですか?

請川:私も含めて今のスタッフは小学生の子供をもっているものが多いので、週4日とかのリモートワークを中心にした働き方を5年くらいは続けることになるのかなと思っています。当分の間は、新規事業をガリガリやるというよりも、既にある「FlyTeam( フライチーム )」と「レイルラボ(RailLab)」を着実に改善し、新しい機能作りということを、毎日少しずつやっていきます。

急激なサービスの拡大やそれに伴う資金調達には、多くの人との調整や協力が必要です。5、6年くらいたって、みんなの子供が大きくなり、時間に余裕が出てきて「もうちょっと働きたいよね」というステージになれば検討してみたいですね。その時は、今はサービス規模や収益の問題で来てもらえない方に参画してもらって、今できていないことに挑戦してみたいですね。

― 本日は貴重なお話ありがとうございました!