【特定創業支援事業「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」】トークセッションログ(第2回:後編)


Practice Fields トークセッション:森氏
2016年3/5(土)・3/12(土)・3/20(日)・3/27(日)に当センターにて開催されました、産業競争力強化法に基づく特定創業支援事業の創業セミナー「Practice Fields(プラクティス・フィールズ)」にて行われたトークセッション内容をご紹介します。
トークセッション コーディネータ:有限会社そーほっと 代表取締役 森下ことみ

第2回ゲスト:株式会社クラフトマンソフトウェア 代表取締役 森 怜峰氏

1982年、東京都出身。
International Network Security Inc.社に勤務するために17歳で高校を中退。
23歳で株式会社サーバイスを共同創業し、SNSシステム開発のCTOを担当。
オープンソースのフレームワーク「Sabel」を開発。26歳で株式会社スイフトスタッフにてエンタープライズ向けソフトウェア開発を担当。KDDIのAndroid初期研究や、 hpのSnapfishサイト構築に携わる。
2013年に株式会社クラフトマンソフトウェアを共同創業。
http://c16e.com/
開催日:第3回 3/20(日) 第2部 16:00〜18:00

前編はこちら

Q3 事業の展開、転機

―  事業展開ということで、まず森さんが参加されたアクセラレータープログラムについてうかがいます。
今、新しいビジネスの種「Seed」を持つ人たちの事業を加速(急成長)させるために、「シードアクセラレータープログラム」と呼ばれる取り組みが各所で実施されています。森さんが参加したのは、Open Network Lab(以下、OnLab)の「Seed Accelerator Program」でしたね。

Practice Fields トークセッション:森氏Open Network Space DAIKANYAMAのHPより引用 https://onlab.jp/about/center/

森:起業後、資金が足りなくてどうしようか考えていたときに、友人が紹介してくれたのがきっかけで、第8期のプログラムに参加しました。
3週間のプログラムで最終日のDemo Dayでプレゼンをして、最初にお話ししたようにベストチームアワードに選ばれました。

期間中は、週に一回のペースでメンタリングを受けることができました。代官山にあるOnLabのオフィスで自分のプロダクトと現状を説明して、成功してるスタートアップの社長の意見を聞いたり、有名なメンターのメンタリングを受けたりしました。
OnLabのメンターは外国人が多いので、英語ができないとちょっと辛いかもしれません。

― 英語でコミュニケーションですか。 それはまた視野と視点が変わりますね。「世界」を意識するとか。

森:変わりますね。例えば、「このプロダクトは何社に売りたいですか?」と言われて、「1000社くらい」と答えたら、「はぁ? そんなわけないでしょ」「何百万社でしょ?」と言われて、「あー、スケールが全然違うな」と。そこでスケール感、ボリューム感が変わりました。

― 「だれに会えるか」ということは大事ですね。

森:うん。大事だね。OnLabはサンフランシスコにもオフィスがあって、そこにも繋いでくれる。僕達は海外展開を目指していたから、そういう点でもよかった。
また、「こういう人はいますか?」と言えば、いろいろな人を紹介してくれる。僕たちは契約に至らなかったけど、「紹介して欲しい」と伝えれば、クライアントもどんどん紹介してくれます。

― 最終日のプレゼンのブラッシュアップもメンタリングを受けて?

森:そうそう。5分間という極端に短い時間でプレゼンをする。「ピッチ」と言いますが、そのやり方を教えてくれます。

Practice Fields トークセッション:森氏

― それは、ずっと使える武器になりますね。

森:絶対、使える。
ピッチでは、なるべく技術的な言葉は使わないようにします。投資家にはソフトウェア開発のことは分からないから、使う場合はきちんとその意味を説明する。そこは大事ですね。細かいディテールはあまり関係なくて、ストーリーを伝えるべき。
どういう課題があって、問題はなにか、その解決策を伝えた上で実際に見せる。それを享受できる人が何人いるか市場規模を示す。「享受できる人数」×「値段」で幾らになるか計算できるでしょ。
それから、本当に成長できるか、信用はあるか、そして競合を示して比較する。あとはリアクションといって、既にどれくらいの反応があるかの実績を示す。これがピッチです。

― シンプルですね。このくらいシンプルに絞り込む。

森:そう。そしてピッチ用のスライドの文字は大きく書く。遠くにいる人にも見えるようにね。小さい文字はなるべく使わない。
ちなみにOnLabでのピッチを作るのに1か月以上かかりました。毎週作り直して、オフィスに行って、実際にメンターの前でピッチをする。それを何回も何回も繰り返しました。
あと、「トレードオフを解消する」プロダクトじゃないと大きくは刺さらない。

― 問題を解決できても、これまでよりもコスト高になるなら、その製品は売れないと?

森:はい。価格が安くなって、速度は12倍以上早くなる。これが本当に打つ手なんです。

― 「いいものを作って、高く売る」ではなく、ちゃんとトレードオフを解消していないと売れませんよと。

森:そうです。インパクト勝負です。

― それで「話を聞いてみよう」という気にさせる。
話が変わりますが、「ShouldBee」のロゴステッカーが、素晴らしくおしゃれなデザインで…。

Practice Fields トークセッション:森氏

森:うちのデザイナーが作りました。僕も妥協せず200案以上作ってもらい、これに決まりました。

― そこに時間かけるくらいならプロダクトを作ればいいのにと思ったりもしますが…。

森:いや、それは間違っています。どれだけ時間をかけてもいいから、ロゴはちゃんとしたものを作ろうと思いました。ピッチもそうだけど、優勝できるかどうかは、プロダクトとはあまり関係ないところがあるんです。
まず「売れるもの」を作る。「誰もが価値を感じるもの」を作る。それは「いいもの」を作ることとは全然違うベクトルなんです。
「いいものを作れば売れる」わけじゃない。「売る」という行為があるから「ものが売れる」ようになる。

― 「いいものを作れば売れる」というのは思い込み、間違っていると。

森:絶対に間違いです。お客さんが買うと決めたプロダクトが「いいプロダクト」です。それは自分が思う「いいプロダクト」ではないです。

― 会社を立ち上げて事業を始めると、自分が生きているだけでそれがコストになる。刻々と自分の時間とお金が減っていく中で、「いいプロダクトができてから売る」では…。

森:プロダクトだけでもダメだし、セールスだけでもダメ。どちらも足並みをそろえて進めていく。偏ってはいけない。

― そのウェイトは?

森:重要さで言えば同じです。どっちも蔑ろにしてはいけない。
ただ、ソフトウェアは技術的負債を抱えることで先延ばしすることができるから、あとで直せばいい。如何に早く使えるものを作るかだから、そこは妥協も大事です。

― 必要最小限の製品を作って、それを売っていく。そしてお客様からのフィードバックを受けて改善していく。

森:そう。如何に早くフィードバックをもらうか。如何に早く失敗するかが大事。
いいプロダクトを作っても売れない場合があるんですよ。それは自分の思い込みだから。
そして買ってくれそうな人に話を聞きに行って、フィードバックをもらう。それを極力短い時間でやる。

気をつけなきゃいけないのは、お客さんの言うことが全てではないということ。顧客の言葉は半分ホントで半分は嘘だから。
まだお客さんが気づいてないことを提案する。それによってお客さんがその価値に気づく。その「価値に気づく」という部分に新規性がある。それがないと既にどこにでもあるものになってしまう。それはそれで売れない。
お客さんが言ってることの根本の原因や問題を見つけてあげる感じかな。結構、表面的なことしか話してこないことが多いから。

― 「本当のこと」は、お客さん自身も分かっていない。

森:分かっていないから言葉になって出てこない。お客さん自身が分かっていないことを見つけてあげる。

― 心から腹を割って話すからそれができるようになる。

森:そうですね。かしこまっちゃうとダメ。オープンに。

― 作りながら売りながら人の反応を見て変えて、また人に使ってもらって、半分嘘で半分本当でというリアクションの中から本当のことを拾ってプロダクトに反映させてまた返す。その繰り返し。
不思議なことに、森さんの話を聞いていると、仕事って楽しいんだと思えてくる。

森:楽しまないとダメでしょ。楽しまないと辛くなっちゃう。

Q4 資金調達について(自己資金・融資・投資)何を使ったか、どう考えているか。

― 森さんはVCから出資を受けていらっしゃるわけですが、「出資は怖い」という方もいらっしゃいます。

森:怖いのは知識が足りないからじゃないですか。

― 自分のものじゃなくなっちゃうんじゃないかとか。

森:僕も最初はそう思ってましたね。でも実際はそんなことはなかった。
最初から出資を受ける必要はないですよ。事業がうまくいき始めて、スケールしなきゃいけない、拡大しなきゃいけなというときに初めて大きなお金が必要になる。その時が一番いいタイミングですね。

― 森さんは自己資金200万円で会社を立ち上げて、そのあと先ほどのプログラムで出資を受けて、なるべくお金使わないで開発を進めて、さらにもう一回出資を受けられて。

森:はい、でも2回目に出資を受けた2,000万円は間違いなく失敗でした。いらなかった。
資金を得たことで余裕が生まれてソフトウェアを作る時間が増えてしまったんです。当時プロダクトを大きくしても仕方なくて、もっとセールス、もっと売り上げを立てなきゃいけなかった。それが失敗でした。1年間くらいの時間を無駄にしてる。

本当は、その2,000万円すべてを営業に費やすくらいがよかったんです。そうしていたら無駄にはなってない。使い方を間違えたと思っています。未熟だった。開発のために2,000万円の出資を受けたけど、実は2,000万円でしなきゃいけなかったことは営業だった。そこに後悔があります。

― 勉強したわけですね。

森:勉強しましたね。まだ2,000万円でよかったです。3億円を調達したのにも関わらず、そういう状況になってしまって、毎月3,000万円くらいの人件費が消えていっている会社もあります。
だからその会社はさらに調達しようとしている。でも企業価値が出てなくて、どうしようもないですよ。企業価値を1ランク下げて、最初の3億円は10%で調達したけど、次の 3,000万円を60%で調達するというような話になってしまう。「ダウンラウンド」と言いますが、そのダウンラウンドが入ると、もう後戻りできない。

僕も最初に3億円調達していたら本当にやばかった。そうなるともう潰れるしかないです。そういう目にあう前にちゃんと分かってよかったと。

― 出資を受けると、上場するか売却するかですが…。

森:イグジット戦略と言いますが、売却を目指すなら最初から「この会社に売却するんだ」という気持ちで資金調達しなきゃいけない。
「IBMに買われる」「Googleに買われる」ということを目指してプロダクトを作る。で、20億円で買ってもらってそこでやめる。

― 売り先を設定しておいて、そこに向かって作っていく。

森:売却の場合はね。

― 森さんの場合は上場する。そして、あまり大きくしない。

森:「人間の数」という意味でね。売上は数百億円くらいにたどり着ければと。

― 何十人の会社で数百億円。

森:そのくらいの規模にはしたい。こういうことはソフトウェアにしかできないですね。

― ソフトウェアにはそれができる。その中で社員が5人1チームくらいで、みんなが有機的にというか融合的に動いている会社をつくりたいと。
森さんは、ご自身で「シリアルアントレプレナーなんだ」とおっしゃいます。シリアルアントレプレナーとは「新しいことを繰り返し生み出す人」という認識でいいですか?

森:そうですね。これがうまくいったら次の事業を立ち上げて、ダメだったらやめて、うまくいったらまた次の事業立ち上げてということをやりたい。

― 森さん自身が投資家やアクセラレーターになることも含めて?

森:そうですね。日本のソフトウェアは弱い!だから強くしたい!

― 日本のソフトウェアを強くしたい!
先ほどの2,000万円調達の話もそうですが、後ろから歩いてくる人たちに自分の経験をシェアするだけでも日本は変わりそうですものね。

森:後戻りできない失敗はさせたくないじゃないですか。
さっきの3億円調達の話がそうですが、資本政策は後戻りできないので、そういう失敗はなるべく伝えて、未然に防ぎたい。助けたい!

― 助けたい!

森:そこは助けたい。時間がもったいない。日本の生産性が下がるじゃないですか。良くない。そういう知識はみんなに伝えたい。「3億はやめた方がいいよ」とか。

― 個人的なレベルで、一つのスタートアップを助けることが日本の国を助けることになる。

森:なりますよね。みんながそうやって助け合えばよくなる。
意外とスタートアップは、そういうことを伝えないんですよ。例えばピッチはどうやるとか、言わないし見せないし。そんなに隠してどうするんだろうなって。

Practice Fields トークセッション:森氏

― 森さん、「日本のため」とか「周りの人たちの幸せのため」とか、かなり本気ですね。

森:そうですね。そもそも「ShouldBee」を作り始めたのは、みんながテストは大変で嫌だろうなと思ったから。僕も嫌だったから。それをなんとかしたら、ソフトウェア開発の世界がよくなるんだという気持ちがありました。そういうのがないと、逆にやる気にならない。

― 「自分のために」じゃなくて、「みんな困ってるから」の方がやる気が起きる。

森:起きますね。

― 今日のお話は、ITに限らず「人ってそういうものじゃないの」というようなお話だったような気がします。

森:そこ大事。そこを押さえてないと。根本の意思決定ができないじゃないですか。

― 決定したところで間違っちゃうでしょうね。

森:間違う可能性は高い。
僕は仕組みが気になったり、心理が気になるタチなんですよ。「なんで?」「どうしてそうなるの?」って常に考えてしまう。考えるのが癖になってる。子どもの頃からそうだし、エンジニアだから仕組みが気になるんです。どうやって動いてるのかとか。

― 突き詰めると「人ってどうなってるんだろう」ということを問い続けてる感じ?

森:そうですね。僕の座右の銘は「探求心」です。14歳くらいから固まっています。

― この経営者は、自分と近いなとか、自分と似てるという経営者はいますか?

森:考えたことないけど、GitHub(ギットハブ)の経営者クリス・ワンストラス氏、この人を目指してるとかじゃなくて、言ってることが似ていると思います。彼は「幸せを最適化しなきゃいけない」と言ってるんです。

僕は企業に一番大事なのは「みんなの幸せ」だと思っています。みんなが幸せになるように、業務を最適化していく、仕事の仕方を最適化していく。僕も仕事にストレスは絶対あってはダメだと思ってる。如何にストレスなくみんなで仕事ができるかいつも考えています。

― あれ! 今この場の幸せ感がちょっと増しましたね(笑)。

森:やったぁー! 大成功、間違いない!(笑)。

― 今日は心からありがとうございました。

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